表情筋トレーナー・内田佳代さんに聞く。ナチュラルな笑顔の作り方
自然でやわらかな笑顔。これほど、人の印象を良くするものはありません。一方で、笑顔に自信がある、という人は少ないのではないでしょうか。表情筋トレーナー・内田佳代さんに、ナチュラルな笑顔の作り方について聞きました。
■基本は、噛むこと
顔の8割が噛むことで動く
ーー 内田さんは、表情筋トレーナーでありながら、歯科衛生士もしていらっしゃると聞きました。
はい。フリーランスの歯科衛生士です。歯科衛生士は、虫歯や歯周病予防の処置や歯のクリーニングなどを行う専門職です。私の場合にはそれにプラスして、歯科衛生士への指導もしています。また、小児歯科や矯正歯科の分野で、口のトレーニングというのがあるのですが、そういうものも勉強しました。
ーー 口のトレーニング?
はい、これは美容とは関係のないもので、口に関する悪習癖を治すためのトレーニングです。私たちは普段、意識することなく、ものを噛んだり、飲み込んだりしていますが、こういうことを上手にできない子どもたちがいます。「ごっくん」とするときに、どういうふうに舌を動かせばいいのか、歯をどうしたらいいのか、そういうことを一つひとつ訓練するのです。ただ、この分野は専門家でも知らない人が多い。学問としてはあるのですが、それ以上のものになっていないというのが実情なんです。
ーー なるほど。
また、日本という国は、医療先進国でありながら、歯に対する意識が非常に低いんです。国は、「8020運動」(80歳で20本の歯を保つ)を掲げてはいますが、達成にはほど遠い状況です。多くの人が、虫歯や歯周病で、歯を失っているんですね。ですが、「噛むこと」は、「食べること」。動物の世界であれば、噛めないものは生きていくことができません。そう考えれば、「噛むこと」は、「生きること」だとも言えるほど、大切なことなんです。
ーー とはいえ、歯医者と聞くと、尻込みしてしまいますね。
そうなんです。みんな、健康診断は年に一度、きちん行くのに、歯に関しては痛くならないと手を打たない。歯科に来てくれれば、いろいろとアドバイスができるんですが、来てくれないことには始まらない。そこで、どうしたら歯に関心を持ってもらえるかと考えたときに、当時、美容目的の口元のエクササイズが流行っていて、「ああ、これだ」と、思いました。ただ、最初にお話ししたように、私の紹介しているエクササイズは、もともとは「きちんと噛む」ためのもの。噛むことで、実は顔の約8割の筋肉が動きます。ですから、私は、歯科の医学的な視点から、顔の筋肉の動かし方をアドバイスしています。
■自然な笑顔には
「威力」がある
ーー では、笑顔について話を聞かせてください。
日本人はシャイなので、表情が豊かでない人が多いですね。また、言葉の問題もありますね。日本語は、あまり口を動かさなくても話せますから。文化的な理由もありますね。日本は「微笑み」を良しとする国ですから、「ニカッ」と笑うのはあまり好まれないともいえます。最近はだいぶ変わってきてはいますが。
ーー そうですね。欧米の人に「笑って」と言うと、歯が見えるくらいの笑顔なのに対して、日本人は微笑んでいるように思います。
そうですね。けれども、やはり、表情の豊かな人は魅力的です。例えば、私の講演を聞きにきてくださる方の中には、「就職活動中だが、書類は通っても面接で必ず落ちてしまう」「怒ってもいないのに、怒っていると言われる」などという悩みをお持ちの方がおられます。そういう人ほど、“笑顔の威力”をよく理解されていますね。けれども、やり慣れないことはできません。そこで、きちんとトレーニングしましょう、というのが私のエクササイズです。
ーー 具体的には、どのようなことをするんですか?
そのときのテーマによっていろいろですが、「笑顔」がテーマのときには、笑顔に使う筋肉を理解してもらった上で、その筋肉の動かし方をマスターしてもらいます。「小顔」がテーマの場合は、たるみを引き締める筋肉に焦点をあてて、その筋肉の鍛え方をご紹介します。
■真の「キレイ」のコツは
短時間を長期間続けること
ーー 非常にメカニカルですね。
そうですね。笑顔を作るというと「作り笑い」のようですが、そうではありません。緊張しているときに、いかにナチュラルな笑顔を出せるかは、普段のトレーニングがものをいいます。正しい姿勢を知っていないと、正しい姿勢がとれないのと同じで、どこに力を入れればいいのかを知っていれば、極端な話、楽しくなくても、笑顔はできるんですよ(笑)。ただ、口角を上げれば、脳で楽しいと感じる物質が出るということが実証されているので、「笑う」こと自体、とても健康的なことなんです。
ーー とても、興味深いお話ですね。
ええ。笑顔は、人も自分も幸せにするんです。笑顔をつくる表情筋は、からだと同じ筋肉です。自堕落な生活をするとお腹と同じでたるみますし、鍛えればいくつになっても鍛えることができます。私の思う「美しさ」とは、「ナチュラル」であること。内面から出る美しさであったり、健康的な美しさであったり。あと、左右対称であるかどうかは、職業柄、気になりますね。噛み癖があると、左右非対称になっていきますから。そういう自然な笑顔をつくるためには、顔の筋肉を柔らかくすることです。ハンコを押したような固い笑顔は、魅力的ではありません。やわらかな笑顔をつくるためには、やわらかな筋肉が必要。そのためには、毎日少しずつエクササイズをすることです。一朝一夕では決してできません。
ーー 内田さん自身は、どのようなことをしていますか?
私は、毎朝シャワーを浴びてから出掛けるのですが、シャワーを浴びながら顔のマッサージをしています。そのあと、メイク前に鏡の前でエクササイズ。歯磨きと同じで、やらないと気持ちが悪い、というところまで習慣化できればいいですね。繰り返しになりますが、顔もからだと同じです。正しく鍛えれば、いつまでも「キレイ」を保つことができます。しかしそれは、短期間でできることではありません。毎日短時間でいいから、長期間コツコツと続けること。これが、いちばんの「キレイのコツ」なんです。
文=清塚あきこ 撮影=大島拓也 場所=αアカデミー